【寄稿】 ピョンヤンを、第二のヒロシマ・ナガサキにさせないために私たちは何をなすべきか。

-朝鮮の水爆実験について考える-

2016・1・12 韓統連大阪本部 金昌五(キムチャンオ)

●朝鮮政府が「水爆実験に成功」と発表

朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮と略す)は、2016年1月6日午前10時、政府声明を通して、初の水爆実験に成功したと発表した。

過去3回の核実験は、いずれも事前に予告(警告)された上で実施されたが、今回は事前にまったく知らされなかったこともあり、その衝撃度は極めて大きかった。また、過去3回の核実験は原爆実験であったのに対して4回目となる今回の核実験は、原爆とは桁違いの破壊力を持つ水爆実験であったことによる衝撃も大きかった。

以降、日本のマスコミは連日これをとりあげ、朝鮮政府を非難し、朝鮮に対するさらなる制裁の強化を求める声は日本社会を覆い尽くしているかのようだ。しかし、果たして、朝鮮を非難し、朝鮮に対する制裁を強化することで問題は解決するのか。

多くの識者は、過去長年にわたる朝鮮に対する経済制裁が効力を発揮しなかったことを認めており、追加制裁による効果も期待できないと認めている。その上で、ただただ「制裁強化」を主張しているのは、まるで思考停止に陥っているかのようだ。

●「制裁の強化」で問題は解決するのか

米国政府は、経済制裁が効果を発揮しなかったのは、中国が非協力的であったためだと、中国政府に責任を転嫁しようとしている。果たして、中国政府が経済制裁に全面協力すれば朝鮮は崩壊するのか。あるいは、中国政府が経済制裁をほのめかして朝鮮に圧力をかければ朝鮮は核を放棄するのか。もし、このような仮説が成り立つとするならば、朝鮮は中国の意に反して核実験に踏み切ることはできないだろう。しかし、朝鮮は、核実験に踏み切った。それも、初めて中国にさえ事前通告することなく水爆実験を行ったのだ。

なぜ朝鮮は、中国政府にも事前通告しなかったのだろうか。ぎくしゃくしていた朝中関係は、昨年10月10日の朝鮮労働党の70周年式典に、中国の最高指導部である中国共産党常務委員会(7名で構成され「チャイナセブン」と呼ばれる)の劉雲山常務委員が参加することで友好関係を回復したとみられていた。その友好関係を一層促進するために、中国共産党と朝鮮労働党が主導して、12月には北京で、朝鮮の「モランボン楽団」の海外初公演が予定されていた。事前の人気は相当なもので3日間の公演チケットはまたたくまに完売し、大変なプレミア価格で取引され、公演日程が5日間に追加されたほどだった。それが公演直前に中止となった。その具体的事情は、中国政府からも朝鮮政府からも明らかにされていないが、ことの経過から考えて、公演の中止は、中国側ではなく朝鮮側の決定であることは間違いないと思われる。

モランボン楽団の公演内容は、インターネットでも見ることができるが、歌や楽器演奏の背景に様々な映像が映し出されるものが多い。伝えられるところによると、中国側がリハーサルの時にその内容を問題視して変更を求めたという。問題とされたのは、朝鮮による人工衛星の打ち上げ映像だ。6者協議の議長国として、アメリカが反対する人工衛星の打ち上げを描いた場面は好ましくないというのがその理由だ。これに激怒した朝鮮側は、ただちに公演の中止を決定して全員を引き揚げさせたという。水爆実験後に明らかにされたが、金正恩第一書記が、水爆実験実施の命令書に署名したのは、その直後の12月15日だ。

今回、過去とは異なり初めて中国にも事前予告をしなかったのはこのような背景によるものと思われる。核実験であれ、人工衛星の打ち上げであれ、朝鮮の自主権に基づく決定に対する不当な干渉は絶対に受け入れないという中国に対する断固とした意思表明でもあるのだ。中国頼みの経済制裁では、決して問題は解決できない。

●朝米対話、失われた20年

制裁の強化で問題が解決できないのであれば、どうするべきなのか。答えは二つに一つだ。軍事力によって戦争で解決するか、政治力によって平和的に解決するかだ。当然、破滅的な核戦争を意味する軍事力による解決は選択肢から除外されなければならない。残された方法はただ一つ。対話による平和的解決だ。

ソ連崩壊後、米国による核攻撃の脅威に単独で立ち向かわざるを得なくなった朝鮮は、米国に対して繰り返し対話を呼びかけてきた。対話の最大の目的は、米国による朝鮮に対する核攻撃を阻止することだ。そのためには、停戦協定を平和協定に転換させ、朝米国交正常化を実現させなければならない。しかし、米国は頑なにそれを拒否し続けてきた。

史上初めて朝米会談が実現したのは1994年だ。朝鮮の核開発疑惑をめぐって米国が朝鮮に対する軍事行動に踏み切る戦争瀬戸際の状況で訪朝したカーター元大統領と金日成主席の会談によって朝米対話の開始が合意され、10月には「ジュネーブ合意」が発表された。朝鮮は、核開発の放棄と引き換えに「アメリカ合衆国は核兵器を使用せず、核兵器で威嚇もしないという公式保証を朝鮮民主主義人民共和国に与える」との確約を得た。しかし、米国の合意不履行により「ジュネーブ合意」は破綻する。朝鮮は再び米国の核攻撃の標的となった。

朝鮮は、1998年に初の人工衛星打ち上げに成功した。人工衛星打ち上げ能力を軍事目的に応用すれば大陸間弾道ミサイルを開発できる。これを契機にクリントン政権は朝鮮半島政策の見直しに着手した。その結果、再度の朝米対話が実現し、2000年に「朝米共同コミュニケ」が発表された。「双方は、朝鮮半島で緊張状態を緩和し、1953年の停戦協定を強固な平和保障システムに転換して朝鮮戦争を公式に終息させるために、4者会談などの様々な方途があるということで見解を共にした」として、朝鮮は、核とミサイルの放棄と引き換えに、念願の平和協定締結への確約を得ることができたのだ。しかし、ブッシュ政権の登場とともに、「朝米共同コミュニケ」は一方的に破棄された。朝鮮は、再び、米国政府の核攻撃の標的となったのだ。のみならず、ブッシュ政権は、朝鮮を「悪の枢軸」と規定し、核先制攻撃の可能性を公然と主張した。イラク侵略戦争を断行したブッシュ政権の下で、朝鮮に対する核攻撃の可能性はいよいよ切迫したものとなった。

このような危機的状況の中で、中国を議長国として推進された6者協議が2005年に合意文を発表するに至った。朝鮮は、改めて核開発の放棄を約束することで、「米合衆国は朝鮮半島に自己の核兵器がなく、核または通常兵器で朝鮮民主主義人民共和国を攻撃したり、侵攻する意思がないことを確言した」との確約を引き出すことに成功した。しかし、6者合意も米国の不履行によって事実上破たんするに至った。朝鮮は、またしても米国の核攻撃の標的となったのだ。

このような状況の中で、2006年、朝鮮は米国に対する度重なる警告の末に、「米国の核攻撃に対する抑止力」として、最初の核実験に踏み切ったのだ。以降、朝米対話が断絶した状況の下、2009年、2013年にそれぞれ2回目、3回目の核実験が行われた。そして今回、4回目の核実験が水爆実験として行われたのだ。

●ピョンヤンを第2のヒロシマ・ナガサキにしてはならない

世界で核爆弾を実戦で使用したのはアメリカだけだ。そして世界で唯一核先制攻撃を公言しているのもアメリカだけだ。そして、現実の国家と都市を標的に毎年大規模核軍事演習を行っているのもアメリカだけだ。そのアメリカの核攻撃の標的とされた国家が朝鮮であり、核攻撃の標的とされた都市がピョンヤンなのだ。

朝鮮半島周辺で、毎年、大規模な軍事演習が行われているのは周知の事実だ。ピョンヤンを核攻撃の標的として莫大な軍事力が投入されるこの軍事演習は、朝鮮にとって最大の軍事的脅威だ。朝鮮半島周辺には爆撃機を搭載した原子力空母が配置され、戦略爆撃機が核弾頭の模擬弾頭を搭載して投下訓練を行っているのだ。

このような戦争の危機を回避するために、朝鮮は米国による核攻撃に対する抑止力としての核保有に踏みきったのだ。そして、核ミサイルの運搬手段として大陸間弾道ミサイルを開発し、昨年は潜水艦搭載ミサイルの発射実験を成功させた。今回の水爆実験は、その延長上にあるもので、唯一最大の目的は、米国の核攻撃に対する抑止力を高めることだ。

日本は、世界で唯一の被爆国であるが故に核実験に敏感だという。しかし、それなら、ピョンヤンが核攻撃の標的にされていることに対しては、なぜかくも鈍感なのか。危険千万な核軍事演習を繰り返すアメリカに対しては、なぜ沈黙を守り続けているのか。

戦争に反対し、平和を求めるすべての人々が、今、何よりも考えなければならないことは、「ピョンヤンを第2のヒロシマ、ナガサキにさせないために何をなさねばならないか」だ。

1994年の戦争の危機を回避した要因は二つあったと言われている。一つは、当時の金泳三政権が強硬に反対したこと。そして、もう一つは、平和憲法に基づく国内法の制約により、ほとんど日本の戦争協力が得られないことが明らかになったことだった。今日の状況はどうか。好戦的な朴槿恵政権は、後先を考えもせずに、対北拡声器放送を再開し朝鮮を挑発している。何より重要なのは、日本の変化だ。安倍政権の下で、平和憲法の精神を踏みにじって戦争法案は強行採決させられてしまった。1994年当時とは異なり、2016年の日本は米国の戦争に公然と協力できる体制を整えたのだ。もはや、米国の戦争を食い止めるブレーキは二つとも解除させられてしまったのだ。この状況の中で、第二次朝鮮戦争を阻止している最大の根拠は、朝鮮の抑止力以外の何物でもない。これが冷徹な現実だ。

イラク戦争を想起してみよう。当時、日本も含めて世界中でイラク侵略戦争反対の大規模デモが行われた。米国の友邦国であるドイツとフランスも含め多くの国々が反対した。しかし、イラク侵略戦争は敢行されたのだ。そして、その結果が今日のイラクの惨状であり、出口の見えない中東情勢だ。朝鮮を第二のイラクにしてはならない。

●朝鮮を第2のイラクにしてはならない

今、日本社会は「北朝鮮」非難の大合唱だ。国会は全会一致で非難決議を採択し、地方議会でも非難決議が続出しているという。国連は追加制裁決議を準備しているというし、米国と日本・韓国は独自の制裁措置を検討しているという。しかし、すでにみてきたように、朝鮮を非難し、朝鮮に対する制裁を強化することで問題は解決しない。すでにアメリカ内部でも政府元高官や朝鮮問題の専門家から、対朝鮮政策の失敗を指摘する声が高まっている。今回の水爆実験を踏まえてその声はいっそう高まるだろう。米国政府が「水爆実験とは認められない」と今回の核実験の意味を過小評価しようとしているのもそのためだ。

「朝鮮を第二のイラクにさせないために、ピョンヤンを第二のヒロシマ・ナガサキにさせないために、私たちは何をなすべきか」。私たちは、今こそ、この問いに答えなければならない。そのためには、朝鮮が水爆実験を行うに至った歴史的経過と現状を冷静に分析しなければならない。

最も大切な課題は、朝鮮半島を取り巻く軍事的緊張状態の根本原因を除去することだ。そしてその唯一の解決方法は、対話による政治的解決だ。

今、私たちがなすべきことは、朝鮮を非難し、朝鮮に対する制裁の強化を求めることではない。アメリカによる核軍事演習を非難することであり、アメリカに対して朝米対話の再開と平和協定の締結を求めることだ。

戦争に反対し平和を求めるすべての人々は、今こそ、共通のスローガンを掲げてともに闘おう。

一、米国は、ピョンヤンを核攻撃の標的にした危険千万な軍事演習を中止しろ!
一、米国は、対朝鮮敵視政策を転換して、朝米対話を再開せよ!
一、米国は、朝米間の交戦状態を正式に終結するため平和協定を締結せよ!

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